私がナイトワークをしようと思ったのは、普通の飲食店より時給が良いからです。ただナイトワークと言っても、私が担っていたのは「ピアニスト」の仕事でした。所謂お客様の隣に座って接待をするという仕事ではありません。三時間ピアノ演奏をするのですが、1時間ごとに10分の休憩をはさみます。ですからお客様と関わったりすることは一切ありませんでした。
その飲食店は、繁華街から少し離れた場所にありました。初めていらっしゃる方は必ず迷ってしまわれるほど複雑な場所にあったので、いつも常連のお客様しかみえませんでした。そんな立地条件の悪いお店なので売り上げも伸びません。それでもママさんはコツコツと生計を立てていました。ママさんがとても真面目で良い方だったので、私はお店変えたいとは一度も思ったことがありません。私の弾くピアノの音色もすごく気に入ってくださっていて、感謝の気持ちでいっぱいでした。

そんな時、お店が移転するという話が出ました。ママさんがコツコツ貯めた資金で繁華街に新しくお店をオープンさせることが決まったのだそうです。
ママさんは私に、新しいもっと良いグランドピアノを購入しようかと聞いてきてくれました。でも私は馴染みのある今のピアノが好きだったので、このピアノで弾きたいと言うととても嬉しそうにしてくれました。

新しいお店に初めて入った日、あまりの広さと煌びやかさに圧倒され、急に緊張し始めたのです。客層も広がり、常連のお客様より新しいお客様の方が多くなっていました。それでも常連のお客様の中で、私のピアノを気に入ってくれている方が来店してくださるととても安心できます。直接お話することは出来ないので、私に何か話したいことがあると常連のお客様は小さなメモをピアノにさり気なく置いて行かれるのです。そのシステムはキャバクラ移籍したお店でも変わりなくしてくださり、とても嬉しかったです。
今は広々とした店内で心地よく演奏をしています。

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